”さんぴん茶”というと聞き慣れないが、その正体はジャスミン茶。中国で、ジャスミン茶のことを「香片(シャンピエン)茶」と呼ぶ地方があり、それが訛ってさんぴん茶になったといわれている。ジャスミン茶は、ジャスミンの花をお茶にしたものではなく、緑茶にジャスミンの花の香りをつけたもの。人気が出てからは、全国展開している大手飲料メーカーもこぞって缶やペットボトルを発売したため、近年はジャスミン茶といえば、全国的にメジャーなお茶のひとつになった。沖縄を訪れた際は、本場の味を確かめてみてはどうだろうか?
沖縄のお茶といえばさんぴん茶
ルーツは中国!?
家族の団らんのひとときに、親しい仲間と一緒に、気分をリフレッシュしたいとき。沖縄ではいつも「さんぴん茶」があります。オバーの家の縁側には急須に入ったさんぴん茶があり、黒糖やサーターアンダギーとともに振る舞われます。お茶の時間にほっと一息つくのも、沖縄ではやっぱりさんぴん茶がポピュラー。さわやかで甘い香りの花茶、さんぴん茶は、沖縄で昔から老若男女に親しまれてきました。
ところで、さんぴん茶が沖縄方言の呼び名で、実は緑茶にジャスミンの花の香りをつけた中国茶の“ジャスミン茶”と同じものだと知っていますか。さんぴんという呼び名は中国語の俗称で「香片(シャンピエン)」から来たとされており、ジャスミンはモクセイ科オウバイ属の植物の総称で、亜熱帯に分布し、20種以上もあるといいます。さんぴん茶に使われているのは中国で「茉莉花(モーリホア)」と呼ばれる種類です。
中国で日常的に飲まれ、日本では中華料理店などでおなじみです。同じ緑茶といっても、日本の緑茶が蒸して青々とした香りや味を楽しむものであるのに対し、中国の緑茶は釜煎りにして酵素を不活性化させ、落ち着きのあるまろやかさを引き出したもの。こうすることでジャスミンの花の香りが付きやすく、茶葉とも調和しやすくなるのだとか。青々しさが特徴の日本の緑茶では、茶葉の香りとジャスミンの花の香りが互いに主張しあってケンカしてしまうのだそう。さんぴん茶って意外と奥が深いんですね。
沖縄でさんぴん茶が飲まれるようになったのはなぜ?
中国で生まれたジャスミン茶がいつ沖縄に伝わり、さんぴん茶と呼ばれるようになったのかは、残念ながらはっきりわかっていません。お茶そのものが沖縄に伝わったのは1627年のことで、時の国相・金武王子朝貞が島津家の祝賀使として鹿児島へ上国した際、茶の種を持ち帰り、自分の領土で栽培したのが始まりとされています。
さんぴん茶が庶民に広く飲まれるようになったのは、1901年に尚家財閥の貿易商社が福州に製造工場を構え、県内に普及させた頃からではないかと考えられています。それ以前にも、琉球王国では14世紀から16世紀頃まで、中国をはじめとする東アジアの国々と盛んに交易を行い、優れた中国商品を大量に輸入し、それらを近隣諸国へ輸出していた歴史を持っています。また、当時の琉球には中国からの使節団である冊封使一行がたびたび訪れ、一行を迎える出先機関「天使館」があり、中国の福州にも琉球からの使節団が滞在する「琉球館」が設けられていました。このような琉球と中国の密接な関係から推測すれば、さんぴん茶はもっと早く琉球に伝わっていたのかもしれません。
手間ひまをかけたさんぴん茶「甘く爽やかな香り・味わい」
ジャスミン茶は非常に手間ひまをかけて作られます。花が開きそうなジャスミンのつぼみを夕方までに手作業で摘み、釜煎りした緑茶葉とやさしく混ぜ合わせて香りを付けます。この作業は1回だけではなく、少なくとも数回は行われます。何度も香りを付けては花を取り除き、また花を入れて香りを付ける作業を繰り返します。手作業で時間と手間をかけて作ったジャスミン茶葉を使っているから、さんぴん茶は香り豊かでおいしいのです。
さんぴん茶の甘く爽やかなジャスミンの香りは、気持ちをゆったりとさせ、気分をすっきりさせてくれます。油っこい食事をした後には口をさっぱりとさせてくれるので、中華料理店で出されたり、チャンプルーやラフテー、ソーキ汁などこってりとした沖縄料理との相性も抜群です。揚げ物の多いウチナー弁当とはまさにゴールデンコンビです。
すっきりとした味わいは、甘みの強いケーキやクッキー、チョコレートなどのスイーツともよく合います。もしかしたらウチナーンチュは、さんぴん茶に親しんできた長い経験の中で、そのチカラを自然と感じ取り、生活のさまざまなシーンで上手に活用してきたのかもしれませんね。